東京高等裁判所 昭和56年(行ケ)302号 判決
一 請求の原因一ないし三の、特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨、審決の理由の要点が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。
二 そこで、請求の原因四の審決を取消すべき事由の有無について判断する。
1 原告は、審決には、本願発明と引用例との構成における相違点及び本願発明の奏する格別の作用効果を看過した誤りがある旨主張する前提として、本願発明にいう「紫外線」とは、フオトマスクを通して露光される感光性樹脂組成物に対して活性である光線、具体的には、約五〇〇mμ以下の短波長の光線のすべて、すなわち、通常の紫外線領域である約三九〇mμ以下のみならず、隣接した可視光線領域の約三九〇mμないし約五〇〇mμの波長を含む光線を意味するものであつて、本願発明は、複合光重合性要素の巨大分子有機重合体層を、右のような光線に対して少なくとも一・五の光学濃度を有し(実質上透過を阻止する。)、かつ、それ以上の波長の可視光線照射には実質上透明である層としたことに構成上の特徴があると主張するので、まず、本願発明にいう「紫外線」の意味について検討する。
前記争いのない本願発明の要旨及び成立に争いのない甲第二号証の一ないし四によれば、本願発明は、明細書の特許請求の範囲の記載のとおりの構成を発明の要旨とするものであり、複合光重合性要素の一方の層である巨大分子有機重合体層については、「少なくとも一種の紫外線吸収性染料又は顔料を含有し、しかも、紫外線照射には少なくとも一・五の光学濃度を有し、かつ、可視光線照射には実質上透明であ」ること(及び「硬化された状態のレジスト形成性層を溶解しない溶媒に可溶性である」こと)を要件とするものであることが認められるところ、右甲第二号証の一ないし四によれば、なるほど、本願発明の明細書の発明の詳細な説明中には、右巨大分子有機重合体層について、「重合体層(3)に混入された紫外線染料又は顔料のために、少なくとも〇・五又はそれ以上の光学濃度を光硬化を開始するのに用いられるスペクトルの範囲、すなわち、二〇〇~五〇〇mμの間のものに対して与えなければならない。」(第七頁第一六行ないし第八頁第一行)、「二〇〇~五〇〇mμのスペクトルの範囲における活性線照射の少なくとも九九%の吸収を与える濃度にある紫外線照射吸収剤を含有する溶媒可溶性樹脂」(第一〇頁第九行ないし第一二行)、「多くの紫外線染料はむしろ鋭敏な切捨点を有しているので、オイルイエロー3G(C.I.#29)及びルクソールフアストイエローT(C.I.#47)のような黄色又は橙色の染料を紫外線吸収層と配合することもまた有用である。……光学濃度は少なくとも一・五―五・〇であり、かつ、光重合を開始するのに用いられるスペクトル領域、すなわち、約二〇〇~五〇〇mμにおける活性線照射の次の通過を妨げるものでなければならない。」(第一三頁第一四行ないし第一四頁第九行)との記載のあることが認められるが、右各記載は、いずれも、「好まし」い(第七頁第七行)実施の態様ないし「本発明の好適な具体例」(第一〇頁第八行)についての記載であることが明らかであつて、特許請求の範囲の記載においては、前示のとおり、巨大分子有機重合体層は、光線の照射に関しては、少なくとも一種の紫外線吸収性染料又は顔料を含有し、しかも、紫外線照射には少なくとも一・五の光学濃度を有し(実質的に透過を阻止し)、かつ、可視光線照射には実質上透明であることのみが要件として記載されているだけであり、そこにいう「紫外線」が通常の意味での紫外線(約三九〇mμ以下)のみならず、隣接した可視光線領域の約三九〇mμないし約五〇〇mμの領域の光線をも含むものであるとか、約五〇〇mμ以下の短波長の光線すべての透過を阻止すること、あるいは、約五〇〇mμまでの領域の光線を吸収する黄色又は橙色の染料を配合することなどは、何ら記載されていないし、他に本願発明にいう「紫外線」をもつて約五〇〇mμ以下の短波長の光線と解釈すべき根拠も存しない。
したがつて、本願発明にいう「紫外線」とは、約五〇〇mμ以下の短波長の光線を意味するものであるとの原告の主張は採用の限りでない。
2 しかして、原告の本件における審決取消事由の主張は、原告も自認するように、本願発明にいう「紫外線」が約五〇〇mμ以下の短波長の光線を意味するものであることを不可欠の前提要件とするものであつて、この前提なしには成り立ちえないものであるから、右「紫外線」の意味についての原告の主張が、右1のとおり採用しえないものである以上、審決取消事由についての原告の主張は、その余の点について判断するまでもなく、失当であることが明らかであり、審決には原告主張のような誤り、違法の点は存しないものといわなければならない。
三 よつて、審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を棄却することとする。
〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。
少なくとも二個の別個の層を緊密な接触状態において包含しており、しかして、一つの層は活性線照射により光重合可能であり、しかも、光重合された状態ではその層を溶解しない溶媒中に可溶性であるようなレジスト形成性層であり、そして、もう一つの層が少なくとも一種の紫外線吸収性染料又は顔料を含有し、しかも、紫外線照射には少なくとも一・五の光学濃度を有し、かつ、可視光線照射には実質上透明であり、そして、硬化された状態のレジスト形成性層を溶解しない溶媒に可溶性である巨大分子有機重合体層であることを特徴とする、複合光重合性要素。